映画 | 死霊館 エンフィールド事件

原題:THE CONJURING 2
製作国:カナダ、アメリカ
製作年:2016年
実在の心霊研究家ウォーレン夫妻が取り扱った事件を描いた「死霊館」の第2作目。謎の怪現象に悩まされる少女ジャネットとその一家を救うべく、イギリス・ロンドン近郊の街エンフィールドを訪れたウォーレン夫妻。さっそく霊視を試みるロレインだったが、意外なことに現場のどこからも霊の存在は感じられなかった…。

↓↓以下ネタバレが含まれている場合がありますのでご注意ください。↓↓
いやぁ、今作も炸裂していましたね。ハートウォーミングがこれでもかと。
ここまでハートウォーミングな展開を徹底するホラー映画も珍しい気がしますが、このシリーズはそれがウリかなぁとも思うのでまぁ良し。

前作からややパワーダウンした印象は否めない感じではありましたが、さすがのジェームズ・ワン監督、相変わらずの揺るぎない安定感で、最初から最後まで飽きずに楽しく鑑賞できました。
なんというか、本当に“万人向けのホラー映画”といった感じで(中には気に食わない人もいるかもしれないけど)ホラー映画好きのツボを最低限ちゃんと押さえた作りにしつつも、普段あまりホラー映画を観ない層の人達を突き放し過ぎないよう極端な演出を押さえた作りになっていて、良いか悪いかはともかく、まぁよくぞここまで巧妙にバランスをとって作れるもんだなぁと感心させられます。
ただ、やはりそのために犠牲にしているものも少なからずあるわけで、すべてにおいて無難な作りになっているため、ホラー映画好きに思わず身を乗り出させるようなインパクトのある展開や演出は全く期待できません。そのあたりからすると、この映画、主なターゲットはやはり普段あまりホラー映画を観ない層の人達で、でもホラー映画ファンでも楽しめる作品、というのを意識して作られてるんでしょうね。
一応ホラー映画好きの部類にはなるであろう自分としては、ホラー映画はとにかく作りが雑だろうが筋が通ってなかろうが、何か一つでもいいから尖ってやろう!という鼻息の荒い作品の方が好みなので、そういった点でこの作品は、いまひとつ物足りなさを感じてしまうというのが正直なところではありました。

あと、ホラー映画にしてはちょっと長すぎる上映時間もどうなんでしょうね。
まぁ“起承転結”の“起”からしっかり描写することによって、物語や登場人物たちへの感情移入がより深くなるんだろうというのは分かりますが、普段からホラー映画をたらふく観ている人間は「ホラー映画に説明なんて必要ねぇ」という人が大多数(偏見)だと思うので、こういったところでも、この映画のターゲットが本当に幅広い層を意識して作られているというのが分かりますよね。
(自称)ホラー映画好きからすると、もっと短くていいんじゃね?とか思ってしまいますが、このあたりについては、監督自身が“家族の絆”や“夫婦の絆”を描くことにこだわっていそうなので、そこを存分に描くためにもこの長い尺はどうしても必要だったんでしょうね。短い尺に無理やり詰め込んでしまうと、途端に安っぽくなってしまいかねないですからね。

なんか(自称)ホラー映画好きが、この作品から感じた違和感を書き連ねる流れになってきてしまっていて、もはやレビューの体をなしていない気もしますが、まぁせっかくなのでもう一つ書かせていただくと、この映画、鑑賞者を極力嫌な気分にさせない配慮がちらほらとされていて、そこも物足りなさを感じる点の一つでした。
冒頭、家賃滞納がなんたらかんたらと激しい口調で電話をしているペギーの姿から、子供達を邪険に扱う嫌な母親っぽいなぁと思わせつつ、子育てが上手くいかないことで自分を責めたりなんかして、最初から普通に良い母親だったり、悪魔系や心霊系のホラー映画でよくある「一人の時は怪現象が起こるけど、他の人がいる時には何も起きなくて、誰にも信じてもらえない」というシチュエーションが全くなかったりして。
要は鑑賞者を嫌な気持ちにさせる要素を極力排しているのでしょうけど、このあたりが、なんというか中身のないスカスカのスイカを叩き割ってるような、手ごたえのない虚しさみたいなものを感じてしまった、なんて言ったらちょっと言い過ぎでしょうか。
映画に限った話ではないですが、物語って途中「嫌だなぁ」と思うことが多ければ多いほど、ラストで問題が解決した時に得られるカタルシスは大きくなりますよね。ところが、この映画は「嫌だなぁ」と思うことが極端に少ないので、その分ラストで鑑賞者が得られるカタルシスもさほどでもなくなってしまって、結局のところ損をしてしまっている気がしてならないんですが、どうなんでしょうかね。

とまぁ、何やかんや全体的に愚痴っぽくなってしまいましたが、なんだかんだ言ってもやっぱりジェームズ・ワン監督のホラー映画はいつも安心して観られる安定感がありますし、内容的にもまだまだ続きそうな感じだったので、次の死霊館3も楽しみにしたいと思います。

ちなみに余談ですが、主人公ジャネットを演じた女優のマディソン・ウルフ。可愛いだけじゃなく、ビルに取りつかれた演技とかかなり素晴らしかったのでちょっと調べてみましたら、なんと「RE-KILL[リ・キル]対ゾンビ特殊部隊」の冒頭とラストに出てきたあの女の子ではないですか。
「RE-KILL」の時はあんなに小っちゃかったのに、すっかり大きくなっちゃってまぁとか思ってたら、「RE-KILL」の制作年が2015年なのでそんなに年数経ってなかったっていう衝撃。
彼女は現在14歳とのことで、まだまだ子役の域なんでしょうけど、この印象の違いはやっぱり演技力なんだろうか。すごいですねぇ。

「死霊館 エンフィールド事件」のスタッフ&キャスト
監督:ジェームズ・ワン
脚本:キャリー・ヘイズ、チャド・ヘイズ、ジェームズ・ワン、デヴィッド・レスリー・ジョンソン
出演:パトリック・ウィルソン、ベラ・ファーミガ、マディソン・ウルフ、フランセス・オコナー、サイモン・マクバーニー