映画 | イット・フォローズ

原題:It Follows
製作国:アメリカ
製作年:2014年
ある日、ジェイは一夜をともにしたヒューから“それ”をうつしたこと、“それ”に捕まれば確実に死ぬことを告げられる。いつどこから現れるとも知れない“それ”から果たしてジェイは逃げおおせることができるのか…。

↓↓以下ネタバレが含まれている場合がありますのでご注意ください。↓↓
この作品、巷のレビューなどでは“新感覚ホラー”なんて言われているそうで、んー確かに普通のホラー映画とは一線を画す作品ではありますが、一方で「怖くない」「つまらない」という感想も少なくないようです。ただ、「怖さ」以外にも色々と見どころがありそうなこの作品、「怖くないからつまらない」と投げ捨ててしまうのは少々もったいない気がします。怖くないのはまぁ確かにその通りなんですが。

この映画、観始めて真っ先に「おや?」と感じるのは、やはりB級ホラー映画とは思えない“こだわりの映像美”でしょうか。自分はどちらかというとホラー映画に映像美は求めていない方なので(嫌いではないですが)、とりあえず「おぉなんか綺麗だ」くらいの感想でしたが。ただそれも、終盤プールサイドのシーンあたりまでくるとちょっとクドく感じるようになってきてしまって、素直な気持ちで観終えることができなかったのがちょっと残念でした。
そうそう、美しい映像のホラー映画といえば、北村龍平監督の「ミッドナイト・ミート・トレイン」なんかも映像がやたら無機質で美しい印象で、妙な違和感をおぼえながら観ていたのを思い出しました。そう考えると自分美しい映像のホラー映画とはあんまり相性良くないのかな。嫌いじゃないのにな。

そして“こだわりの映像美”の次に気になるのは“個性的な音楽”でしょうか。やたら主張の強い耳に残る音楽が多かったような。このあたりも監督の強いこだわりが感じられますが、ここまで露骨に主張されると逆にうるさく感じてしまうのは自分だけでしょうか。気がそれてしまうというかなんというか。
まぁただ、これに関しては、場面の雰囲気と明らかに合っていない不思議なテンポの音が流れるシーンが何か所かありまして、そのなんというか不協和音的な変な居心地の悪さを感じさせるあの音だけは妙に好きだったんですが。

そしてそしてこの映画、ホラー映画として一番違和感を覚えた点が、鑑賞者に対する攻撃的な部分がほとんどない点でしょうか。もちろん“それ”(モンスター)を除いての話ですが。
登場人物(仲間)たちがみんな善良で、目に見えない何者かにおびえるジェイを、誰も疑ったり見捨てたりしないのもそうですが、その他どこをとっても鑑賞者を不安にさせたり、居心地悪くさせたり、不快にさせたりする要素がすっぱり無いですよね。なにこのホラー映画とは思えない揺るぎない安心感。

世間の「怖くない」と言う感想については、多かれ少なかれこのあたりに要因がありそうですよね。観る者の心を癒す綺麗な映像。生々しい音から視聴者の意識を遠ざける個性的な音楽。疑心、恨み、嫉妬、諍い、裏切りなどなど負の感情とはおよそ無縁な登場人物たち。これだけそろっていれば、そりゃ怖くはならんでしょう。わざわざホラー映画を観ようとする人なんて“怖さ”を求めて観る人がほとんどでしょうから「物足りない」という感想が出てくるのも仕方がない。
なんかこれ、ホラー映画を期待して観てなかったら一体どんな感想になってたんでしょうか。まだ観てなくて、内容もよく知らない人がいたら“ちょっと変わった青春映画”と前置きして観せてみようかな。怒られるかな。

そういえば、ひとつお気に入りだったのが、ラストのプールでの感電作戦のシーン。よくよく考えたらあんなイカニモな感じで待ち受けてるところに、普通おいそれと飛び込んでいくバカはいないよなぁと。この点に関しては劇中のメンバーたちはもちろん、観ているこちらまでヤツがまんまとプールに飛び込んで(倒せるかどうかはともかく)感電させるところまではいけるんじゃないか?とか思っちゃいまして、そんな全員の浅はかな期待を見事に裏切った“それ”の家電ぶん投げ攻撃は、ホント気持ちのいいくらい爆笑させられました。そりゃそうなるわ。自分もなんであれが上手くいくと思ったんだろう。そういえば最初のほうのシーンでヒューが「ヤツは足は遅いが頭はいい」とかなんとか言ってましたよね。まぁ頭がいいとかのレベルの話ではないですが。

そうそう、この映画、低予算で撮られているというのをどこかで目にしまして、低予算映画のわりにはなかなかハイセンスな映画だなぁと感心しながら製作費がいくらだったのか見てみましたらなんと2億円。いやそりゃハリウッドの超大作映画のウン百億円から比べたら少ない方でしょうけど、自分としては低予算映画というと「コリン」とか「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」とか「パラノーマル・アクティビティ」あたりが真っ先に頭に浮かぶ派なので、全然低予算じゃないじゃないか!と自分の無知さ加減に失笑させられるというエピソードもあったりしました。

まぁ自分が好きな感じのホラー映画ではなかったですが、“それ”の不気味さとかはなかなかのものでしたし、普通のホラー映画とは異なる部分も含めてそこそこ楽しく観ることが出来ましたので、個人的には満足でした。いろんな意味でとてもライトなホラー映画なので、普段ホラー映画を観ない人でもポップコーン食べながら楽しく観られるんじゃないでしょうか。

「イット・フォローズ」のスタッフ&キャスト
監督:デヴィッド・ロバート・ミッチェル
脚本:デヴィッド・ロバート・ミッチェル
出演:マイカ・モンロー、キーア・ギルクリスト、ダニエル・ゾヴァット、ジェイク・ウィアリー、オリヴィア・ルッカルディ、リリー・セーペ