児童文学 | 熱風

原題:熱風
著者:福田隆浩
発行:2008年
聴覚障害を持つ孝司と病気で頭髪を失った中山は、中学二年生。あるテニスの大会で、この二人がダブルスを組むことになった。猛練習をするが、頑固で負けず嫌いの二人は反発するばかりだ。そして、試合数日前になって中山が雲隠れをしてしまい、とうとう試合当日になってしまった。中山がコートに現れることを、 孝司はひたすら信じて待つが・・・。ダブルスを組む孝司と中山。立ちはだかる敵よりも二人の熱い闘いから、眼が離せない!

<感想>
小説としてはちょっと単純すぎて物足りなさはありましたが、聴覚障害者側の視点から描かれるエピソードはどれも目からウロコで、興味深い内容でした。
聴覚障害を持つ人たちが、どんな大変さを抱えて生きているのかということを、ほんの一端とはいえ知ることができて良かったです。
「私たちの本当の気持ちは、私たちじゃないと分からないんだから」というセリフは、マジョリティの人間からすると、なんとなく被害妄想めいたネガティブなものに聞こえてしまいますが、では実際どうなのかと突き詰めると、結局はまったくその通りで、さまざまな辛い経験からくるセリフなんだろうなと思います。
テニスの試合に“勝つ”ことが、2人を笑う連中を含め、戸田や江口や酔っぱらいたちに“克つ”ことではないので、すぐに熱くなる孝司たちにはハラハラさせられましたが、ラストは勝ち負けを超えたところにちゃんと落ち着いたのでホッとしました。