映画 | ヘルケバブ ~悪魔の肉肉パーティー~

原題:Baskin
製作国:トルコ、アメリカ
製作年:2015年
ある夜、レストランで食事をしていた5人の警官たちは救援要請を受け、地元でも不吉な噂の絶えない“インチャージ地区”へと向かう。異様な雰囲気の漂う廃墟へと足を踏み入れた彼らは、そこで地獄へと続く扉を通り抜けることになる…。

↓↓以下ネタバレが含まれている場合がありますのでご注意ください。↓↓
相変わらず節操のカケラもないトンデモ邦題から、いかにもお下劣なホラー映画を想像してしまいがちですが、なかなかどうして、意外にもおちゃらけ感皆無の真面目な作りのホラー映画でした。
何でしょう、ネット上のレビューでもさんざん言われているようでしたが、面白いかと聞かれると確かに面白いとは言えない。けどなんか雰囲気は良いし味があるよね、って言う。
まぁ面白くないという部分の大半は、ストーリーが意味不明というところが大きいでしょう。自分は考察とかあまり得意じゃないこともあり、理解できないものについてはまぁそれはそれで気にせず次へ行けるタイプなので、こういう映画もそこそこ楽しめる方なんですが、これ、ちゃんと筋を理解できないと気が済まないタイプの人にとっては、かなりの苦痛を伴う作品となるでしょうね。
こういう映画ってたまにありますが、こんな風に鑑賞者にストーリーの理解を許さない作りの映画にするのって何かメリットがあるんでしょうか。「意味不明なのが良い」っていう奇特な人が世の中にはいるのかな。それとも自分のような常人には計り知れない何かしらの深い意図があるんでしょうか。自分としては、どうしても制作者の自己満足でしかないと思っちゃうんですが、実際どうなんでしょう。まぁどっちでもいいんですけど。

前半パートはどちらかというと陰鬱で静かな展開が続き(40~50分ほど)人によっては退屈に感じるかもしれませんが、廃墟に突入する後半パートでは、おとなしかった前半が嘘のように雰囲気がガラッと変わり、攻撃的で気違いじみた展開の連続で度肝を抜かれます。勢いとインパクトのある後半パートもなかなかでしたが、自分はジメジメのったりした不穏な空気感の前半パートも嫌いじゃないですねぇ。
そうそうあと、ところどころで謎のアルダとレムジの会話シーンが唐突に挿入されたりと、変に緩急のある構成にもなっていまして、さっぱり意味は分かりませんでしたが、そのあたりも割と嫌いじゃない感じでした。
ちなみにこの映画、グロさエグさについては、ざっと見た感じ(ホラー映画としては)さほどどぎついことをやっているわけでもないのに、なんだかものすごくグロさエグさを感じるんですよね。なんでだろう。雰囲気作りが上手いのかな。

ところで、終盤のカルト集団のボス“ファーザー”にヤヴズたちがアレやコレやされるシーンについてですが、これは映画の冒頭のレストランのシーンでヤヴズたちが犯した“憤怒” “暴食” “色欲”といった罪により与えられた罰という意味合いがあるそうですよ。七つの大罪でしょうか。
“憤怒” “色欲”についてはヤヴズ、“暴食”がアポといったところでしょうかね。
ヤヴズの“色欲”の罪に対しての罰は言わずもがなですが、“憤怒”の罪に対しての罰は何なんだろう。あの目潰しがそれなのかなぁ。ちょっと調べてみたところ、なんでも「怒りは人の眼を覆って光を見ることができなくなる」というのがあるそうなので、それで目潰しなのかな。うーん…。
まぁうん、上の二つはとりあえずそれで腑に落ちたということにして(口から蜘蛛はよく分からなかったけど)、残りアポの“暴食”の罪についてはどうなんだろう。まぁ腹を裂かれているので、明らかに“暴食”の罪に対する罰なんでしょうけど、冒頭のレストランのシーンで、アポだけがそんなに貪り食ってる印象もなかったんだけどなぁ。むぅ…よく分からん。

あと、ちょっと余談ですが、“ファーザー”のモデルは、映画「地獄の黙示録」の“クルツ大佐”だそうです。「地獄の黙示録」は観たことがありませんが、その元となった原作ジョゼフ・コンラッドの「闇の奥」は読んだことがあったので、その点ちょっと興味深かったです。
また、監督は“ファーザー”役のマフメット・チェラホグに、役作りの助けとして「地獄の黙示録」「ヘルレイザー」「エルム街の悪夢」「ディセント」などの映画を観せたり、カルト集団の造形などについては「ディセント」「人類創世」「フロンティア」といった映画からインスピレーションを受けていて、さらにビジュアル面では「オンリー・ゴッド」から影響を受けていたりと、その他にもさまざまな映画から着想を得ているようなことをインタビューで話しているみたいです。そんなところから、この監督は本当に映画が好きなんだなぁというのが伝わってきますね。こういう話を聞くとなんだか親近感がわいてほっこりします。
自分は上記の映画を全部観ているわけではないですが、観たことがある映画を思い浮かべると「あぁなるほど」と思う点がところどころあってなかなか面白かったです。
この監督さん、この作品が長編作品初監督ということで、あの(どの?)イーライ・ロスも絶賛しているくらいですので、まだまだ若い方みたいですし、何ともこの先が楽しみな監督さんです。

「ヘルケバブ ~悪魔の肉肉パーティー~」のスタッフ&キャスト
監督:ジャン・エヴェノル
脚本:オグルジャン・エラン・アカイ、ジャン・エヴェノル
出演:マフメット・チェラホグ、ムハレム・バイラク、Gorkem Kasal、Ergun Kuyucu、Fatih Dokgöz、Sabahattin Yakut、Berat Efe Parlar