映画 | 肉

原題:We Are What We Are
製作国:アメリカ
製作年:2013年
郊外の小さな田舎町で静かに暮らすパーカー一家。慎ましやかな生活を送っていた一家には先祖から代々引き継がれるある伝統があった。美しい姉妹アイリスとローズは、ある日不慮の事故で亡くなった母親エマの代わりに“子羊の日”と呼ばれるその忌まわしい伝統を受け継ぐことになる…。

↓↓以下ネタバレが含まれている場合がありますのでご注意ください。↓↓
カニバリズム一家を描いた作品で、しかもタイトルが「肉」と来れば、ホラー映画好きであれば誰しもが粗野で下品な(褒め言葉)グロ映画を想像してしまうものですが、この作品はそれとは全く違って、はっちゃけ感の全くない淡々としたしっとりホラー映画でした。
ラストちょっとだけビックリ展開があるものの、お話しの筋としては特に何にも目新しいことなく大体想像通りのことしか起きませんが、ただ、目を引いたのがそのストーリー展開のテンポ。まぁとにかく焦らす焦らす。一家が“子羊の日”と呼ぶ儀式で何をやろうとしているのかも観ているこっちは大体想像がついてるのに、なかなかそこまで話が到達しないわけですね。
ただ、ただですよ、この焦らしが個人的にはツボなんですよ。映画は冒頭から不穏な空気をあおりまくって、治りかけの傷がいつまでも治らないようなジクジクとした嫌ぁな空気が終始漂っていて、その空気感を保ったまま何も事が起こらず淡々と日常が過ぎてゆくわけですが、こういうの本当に好きなんですよねぇ。むしろ余計なドタバタ展開を挟んでこの空気を壊さないでほしいと思うくらい。いつまでも観ていられます。

この作品、美しい姉妹や可愛らしい弟君の画的な良さもさることながら、やはりお父さんの味わい深い存在感が一番良かった。
あからさまな気違いではないけど、明らかにまともな人間ではない不気味さというか、もうこの作品が醸し出している不穏な空気の8割はこのお父さんが担っているんじゃないかというくらい。クールー病の症状という設定なのか、そもそもそういう声なのかは分かりませんが、お父さんの低いくぐもった声が、いちいち神経を逆なでする感じで背筋にゾクゾク響いてたまりませんでした。
終始お父さんに感情移入して観てしまっていたので、最後ボロボロになりながらもローズとロリーに「帰ろう」と手を差し伸べるシーンでは思わずウルっと来てしまいました。

ちなみに原題の「We Are What We Are(我々は我々だ)」というタイトル、まぁ邦題の付け方がひどいとか、そういう話は今更なのでこの際どうでもいいんですが、この「We Are What We Are」って誰の言葉なんでしょうね。
映画の題名を取り上げて、そもそも誰の言葉だとか考えること自体がナンセンスな話かもしれませんが、これがお父さんの言葉だったとしたら、なんて虚しい響きの言葉なんだろうと。「我々」という言葉を使っているからには、自分とその家族という意味を込めているはずで、つまり自分たち一家の気持ちは一つだと信じているということになりますが、実際作中ではお父さんに共感している家族は一人もいないんですよね。冒頭で亡くなった奥さんでさえ、「子供たちをお守りください」って呟いているくらいだし、その気持ちは一家の忌まわしい伝統に反発する姉妹のそれに近いものであったと思われますので、ハナからお父さんは孤立していたわけですよ。にもかかわらず家族は一丸となっていると思い込んで愚直に儀式を遂行しようとするお父さん。その虚しさたるや言葉がありません。

ところで、一家が人肉食いをする理由ですが、これは作中に詳しい説明がなかったので、想像するより仕方がない状況です。まぁなんでしょう、未開の地であった現在の土地に入植した一家のご先祖様たちが、食料も乏しくひもじい生活をする中で、禁忌である食人を行い生きながらえ、その罪悪感から逃れるため、それは神がそうさせたものだと責任転嫁をするために“儀式”という形を利用していたものが、そのまま一家の伝統として現在にまで引き継がれてきてしまったといった感じでしょうか。そう考えると、形骸化した古臭い習わしに死ぬまで縛られ、最期は実の娘に食い殺されたお父さんの憐れさといったら…。

一方、二人の姉妹アイリスとローズについては、一家の伝統の儀式にあまり乗り気ではなく、一見すると人肉食いに対して罪悪感を抱いているように描写されていて、「無理やりこんなことをやらされる美人姉妹かわいそう」に見えますが、ラストのシーンで実はこの姉妹の方がより生粋の人肉食いの血筋だったということが判明します。これ、なかなかニクいオチだなぁと思いました。「肉」だけに。
結局この姉妹、先祖の束縛の象徴であるお父さんを食い殺し、この後もどこかの土地で人肉食いを続けてゆくことになるんでしょうけど、一家の習わしとして人肉食いを行っていたお父さんと、これから何にも束縛されずに自らの意志で人肉食いを行うであろう姉妹、いったいどちらの方が忌まわしい存在なのかとか考えると、ちょっと面白い締め方ですよね。

そういえば、一家の妹ローズを演じている女優さん、ジュリア・ガーナーさんという方なんですが、この方どこかで見たことあるなぁと思ったら「ラストエクソシズム2」に出てましたね。
すぐに思い出せなかったくせにこんなことを言うのもアレですが、この女優さん、その綺麗な容姿はもちろんですが、なんでしょうそれだけじゃなくとても惹かれるものがあるんですよね。横目でちらっとみてニヤっと笑う感じの演技とかとても印象的で好きです。ニューヨーク生まれの22歳ということで、まだまだこれからの女優さんのようですので、他の出演作品も今後チェックしてみようかな。

「肉」のスタッフ&キャスト
監督:ジム・ミックル
脚本:ニック・ダミチ、ジム・ミックル
出演:ビル・セイジ、アンビル・チルダーズ、ジュリア・ガーナー、ジャック・ゴア、マイケル・パークス、ワイアット・ラッセル、ケリー・マクギリス、ニック・ダミチ