漫画 | EVIL HEART(イビルハート)

作者:武富智
巻数:全6巻
発行:~2010年1月24日
何かと暴力的でキレやすい問題児・正木梅夫は、中学校の入学式で乱闘騒ぎを起こすなど荒んだ毎日を送っていた。そんなある日、何気に覗いた体育館で「争わない武道」合気道と出会う。どんな相手でも捻じ伏せる絶対的な力を求め合気道を始める梅夫だったが、合気道を通じて触れ合う人々の心に感化され、次第に梅夫の心にも変化が訪れる…。

↓↓以下ネタバレが含まれている場合がありますのでご注意ください。↓↓
自分の好きな作家さんの一人、武富智さんの代表作(と言っても良いと思う)です。
ヤングジャンプで連載していたころ読んでいましたが、それももう10年以上も前のことなんですね。
3巻の発行日が2005年11月23日で、その後4巻にあたる氣編の発行日が2007年2月24日、そしてそして物語がついに完結する完結編上下巻の発行日が2010年1月24日。
いやぁホント待たされました。終わらないんじゃあないかと思ってましたよ。
最終巻を読み終わった後、よくぞ描き切ってくれましたと心の中で拍手喝采でした。

全編を通して、心に響くシーンばかりの作品ですが、やはりなんといっても1巻2巻の展開は圧倒的。暴力という負の連鎖から抜け出すことができず、もがけばもがくほど状況は悪くなる一方で、時折見せる素顔からウメのその弱さ優しさは痛いほど伝わってくるのに、誰もそれに気づいてくれないもどかしさ。早く救われてほしいと祈るような気持ちで読み進めていても、途中で阿部君なんていうさらに状況を悪くしそうなキャラクターも出てくるし、一体どうなっちゃうんだよと。
2巻のラストは大号泣必至。自分を救ってくれたダニエル先生に対して、なかなか言葉を出せないウメがようやく絞り出した“感謝”の言葉で涙腺崩壊。本当に良かったねぇ…と。

その後の3巻は、ウメの家庭環境のことはひとまず置いておいて、合気道の楽しさ厳しさにどんどんウメがのめり込んでゆき、合気道を通じて成長していく姿を、4巻にあたる氣編では海外に飛び出して、ウメの更なる成長と、併せてダニエル先生の過去なんかも描かれていて、1巻2巻のような痛々しさはなくさわやかな印象ですね。どちらもやっぱりラストではウルウルさせられますが。

そしてついに完結編上下巻で家族の因縁に終止符を打つことになるわけです。
お母さんの出所に際しての展開は、もうホントなんでそーなっちゃうのと言わんばかりに裏目裏目の展開で、滋と対峙したウメが再び我を失ってしまった時の絶望感たるや最悪でしたが、これまで合気道で培ってきたものがウメを再び我に返らせるシーンに至っては、もうこれ以上ないくらいの鳥肌が。ウメが滋を組み伏したシーンでの滋の何とも言えない横顏の表情から、これでようやく滋も救われたんだと、またまた号泣。なんなのこの漫画。

ただ、ちょっと物足りない点もありまして、やっぱり滋の心情やその流れについてはもうちょっと描いてほしかったなぁと。
1巻で初めて滋が登場した時の、ウメに呼びかける時のやたら得意げな表情や、「これがお前の将来」と挑発する姿から、のちに描かれる暴力を振るうことを後悔し、救われたいと願っている姿にはどうにもすんなり結びつかなかった。
まぁやっぱり最初の登場シーンは、とにかく“悪者”として描く必要があったのかもしれませんし、もちろん母親に刺されるというショッキングな出来事を経ているわけですから、人の感情の流れとして無くもないかなぁとは思いますが、どうしても読者側が補完しなきゃいけない部分が大きくなってしまっているような気がするので、もうちょっと滋の心情の動きについて分かり易く描いてほしかったかな。滋にももっと感情移入したかった。ページの都合や何やかんや色々事情があって仕方のないことだとは思いますが、そこだけがちょっと残念と言えば残念でした。

そうそう、そういえば、正木家のペット・コロも良い味出してましたね。
ただのマスコットかと思いきや、2巻でダニエル先生と滋が初めて対峙したシーンで、滋を組み伏そうとするダニエル先生にコロが噛みついていくシーンがありました。その時は「なんで?」と思ったものですが、この辺は「コロは昔滋が拾ってきて来た犬だ」とおじいちゃんがさらっと言っていましたので、作中あまり明確に描かれてはいませんでしたが、コロと滋の絆のようなものもきっとあったんでしょうね。完結編ラストで我が家に帰ってきた滋がコロを抱きしめるシーンなんかもとても印象的でした。

最後はすべてが丸く収まり大団円。ちょっといきなり丸く収まりすぎかなぁとも、ひねくれ者の自分は思っちゃったりしましたが、ウメと滋の大立ち回りの後から、そこまでの過程はすっぱりはしょられているので、まぁその間にも紆余曲折色々あったんでしょう。
コミックスとしてはたかだか6冊(1冊1冊が結構分厚いけど)の物語でしたが、まるで大河ドラマでも観たかのような重厚な読後感の残る骨太な作品。大好きな作品です。