開発元:Variable State
発売元:505 Games
リリース日:2016年9月22日
バージニア州バージェス郡にある小さな町“キングダム”にて、ルーカス・フェアファックス少年の失踪事件の調査を進める新人FBI捜査官アン・ターヴァーとその相棒マリア・ハルペリン。しかしアンには相棒であるマリアへの内部調査という任務も極秘裏に与えられていた…。
↓↓以下ネタバレが含まれている場合がありますのでご注意ください。↓↓
このゲーム、ネットで色々レビューを読んでますと“革新的”とか“斬新”などとの評価があるようです。自分はこういった方面にはとんと疎いので、このゲームが本当に“革新的”で“斬新”なことをやっているのかどうかは分かりませんでしたが、そんな自分でもこれがかなりニッチな作品であることだけは分かりました。人によって好き嫌いがばっつり分かれるであろうこのゲーム、自分も1周し終わった時点ではあまり面白いと感じることができませんでした。
まず最初に気になったのは、ゲーム開始直後に操作キャラクターである主人公アンの姿を鏡にでかでかと映しだすところ。一人称視点のゲームの良さってなんといっても没入感だと思いますし、このゲームも一人称視点であるからにはそれを期待していたんですが、冒頭からこうもはっきりと「あなたがこれから操作するキャラクターはあなた自身ではありません」と突き放されるとは。これはあくまで“観る”作品なんだとの制作者の意思表示なのか。まぁどちらにせよ、ここでまず軽く冷めましたよね。
そして、さらに没入感をそぐ演出として、とにかくシーンがコロコロ変わる。廊下を歩いていれば、廊下の先に行きつく前にシーンが飛び、階段を下りていれば、階段下まで降りきる前にシーンが飛ぶ。手渡された資料に目を通し終わる前にシーンが飛び、まだ探索したい場所が残っていようが問答無用にシーンが飛ぶ。プレイヤーに行動の自由はなし。これはちょっと失敗だったかなぁ…というのが1周目を終えた直後の感想でした。
ただですね、期待に反した内容だからイコールつまらない作品、としてしまうのはとても損する考え方だよなぁとも思うわけです。この作品、もちろん大変高い評価をつけているプレイヤーさんもいるわけで、そういった方たちは制作者がプレイヤーに投げかけているものをしっかり受け取ることができてるんですよね。実にうらやましいことですが。
そうして色んな方のレビューなんかも拝見しつつ、色々考えた結果、結局この作品はゲームではないことを受け入れるところからスタートしなきゃいけないんだろうなぁというところに思い至りました。
ということで、それを踏まえつつ2周目通しでプレイしてみましたところ、不満ばかりだった1周目とは違って、ストーリーもすんなり入ってくるし、登場するキャラクターたちにも愛着がわいてきたりと、ようやくこのゲームの本質の部分を堪能することができるようになった気がします。やれやれ。
このゲーム、とにかくセリフが全くないことも相まって、ストーリー展開がとにかく難解です。さらに夢(妄想?)と現実ないまぜにストーリーが進んでゆきますので、さらに輪をかけて分かりづらい。まぁこの点については、制作者からのメッセージで【奇妙かつ混沌を伴ったゲームとなったことを切に願う】なんてありますので、明らかにそれを一つの表現方法としてあえて用いているのが分かります。うんじゃあ仕方ないか。
ちなみに余談ですが、上記の制作者からのメッセージで【混沌】という言葉がちょっと気になったので英文を見てみたところ、【strange】【confound】とあるのを、【奇妙】【混沌】と訳しているようでした。【strange】の【奇妙】はまだしも、【confound】の【混沌】はちょっと言葉が仰々しい気がしたので辞書をひいてみたところ【confound:惑わせる、狼狽させる、まごつかせる】とありましたので、このあたりのもうちょっと弱い意味だとしっくりくる気がしますね。
いやぁ、結局通しで2周してみてようやくこのゲームを楽しむことができたわけですが、ホント1周目で早々に諦めて投げてしまわなくて良かったとしみじみ思いました。
総プレイ時間1~2時間程度の短いストーリーですが、ポップながらも綺麗な映像と、場面場面を盛り上げてくれる骨太な音楽によって、ずんずんと感情が揺さぶられる感覚が本当に気持ち良かった。
明確な答えは作品内で明示されているわけではないので、人によってとらえ方は違うんでしょうけども、自分としては特にラストがお気に入り。(個人的な解釈ですが)人間の矮小さに絶望したアンが、自分が救いたいと思う人間を救い、そして自らも解放されるラストを牢獄の中で妄想する、という何とも切ない終わり方。最後はちょっと鳥肌が立ちました。
このゲームをこれからプレイしようとしている方は、最低でも2周はするつもりでいた方がいいかも。少なくとも初見1周で「意味が分からない」で投げてしまうのは本当にもったいないゲームだと思います。あ、そしてなにより、これを“ゲーム”だと思ってプレイしてはいけません。それだけは確かです。